プールに通い始めて三か月。平泳ぎはなんとか形になったのに、クロールだけはどうしても25メートルで息が上がってしまう。そんな相談を受けることがあります。大人になってから水泳を始めた人がぶつかる壁は、だいたい決まった場所にあります。ここでは、よくあるつまずきを問いと答えの形で整理していきます。
息継ぎのたびに水を飲んでしまうのですが、どうすればいいですか
結論から言うと、息継ぎの問題は「吸う練習」ではなく「吐く練習」が足りていないことがほとんどです。多くの人は水中で息を止めていて、顔を上げた瞬間に吸おうとします。しかし顔を上げる時間は一瞬しかないので、そこで吸おうとすると間に合わず、慌てて水を飲んでしまうのです。
仕組みを順に説明します。正しい息継ぎでは、顔が水中にある間にゆっくり口と鼻から息を吐き切ります。顔を横に上げた瞬間は、吐き終わった直後なので、あとは吸うだけの状態になっています。吸う動作は一瞬で済み、すぐに顔を戻せます。つまり水面に出ている時間でやることは「吸う」の一動作だけに絞るのが理想です。
たとえば25メートルプールを使う市民プールで、壁を蹴って5メートルほど進みながら、顔は水につけたまま「ぶくぶく」と泡を出し続ける練習をする人がいます。これを10本ほど繰り返すだけで、息継ぎのタイミングがつかめてくることが多いです。泡の音が途切れないかを自分で確認しながらやると、吐くペースが体に入ってきます。
ただし、鼻炎気味の人や、もともと鼻呼吸がしづらい人は、鼻栓を使うという選択肢もあります。無理に鼻から吐こうとして余計に苦しくなるくらいなら、道具に頼ってよいところです。ここは迷うところですが、矯正にこだわりすぎず、まず楽に25メートル泳げる感覚を優先したほうが、結果的に長く続けられます。
クロールで体が沈んでしまうのは、なぜでしょうか
体が沈む原因は、たいてい頭の位置にあります。泳ぎ方の練習をする前に、まず顔の向きを見直すと改善することが多いです。
理由を順に見ていきます。人間の頭は体重の約8分の1ほどの重さがあると言われていて、頭が下がれば足も沈み、頭が上がりすぎれば今度は腰から下が浮きにくくなります。クロールで理想とされるのは、水面と目線がほぼ平行になり、耳のあたりまで水に浸かっている状態です。多くの初心者は、息継ぎのときに顔を上げすぎてしまい、その反動で頭が沈み、結果として下半身も沈んでしまいます。
具体的な場面で言うと、プールの中央あたりで横から見ていると、息継ぎの直後だけ腰がカクンと落ちる人をよく見かけます。これは、顔を上げる動作が大きすぎるサインです。試しに、息継ぎのときに顔を上げる角度を今までの半分くらいに抑えてみると、下半身の沈みが減ることがあります。ビート板を使って顔だけ水につけた状態で蹴伸びをする練習も、頭の位置を体で覚えるのに向いています。
例外として、体脂肪率がもともと低い人や、筋肉量が多い人は、どれだけフォームを整えても浮きにくいことがあります。この場合は沈むこと自体を気にするより、キックの力でカバーする泳ぎ方に切り替えたほうが現実的です。浮力に頼れない体質の人に、浮力前提の理論をそのまま当てはめても苦しくなるだけなので、ここは個人差があると割り切ってよいところだと思います。
長く泳げないのは体力不足でしょうか、それとも泳ぎ方の問題でしょうか
結論としては、最初の数か月は体力不足よりも、力みすぎによる消耗が原因であることのほうが多いです。泳ぎ始めたばかりの人は、必要以上に力を入れて水をかいているため、同じ距離でも消費するエネルギーが大きくなっています。
仕組みを説明すると、水泳は陸上の運動と違い、力を入れれば入れるほど進むわけではありません。手や腕に力が入りすぎると、水を強くかいているつもりでも、実際には水を押し出す方向がずれていたり、無駄な動きが混ざっていたりして、進む距離のわりに疲労だけが溜まります。経験者が涼しい顔で長く泳げるのは、筋力の差以上に、無駄な力を使っていないからです。
たとえば、25メートルを4本続けて泳ぐと腕がパンパンになってしまう人がいたとします。この人にコーチが「肩の力を抜いて、腕を伸ばしてから水をかくように」と声をかけるだけで、同じ4本をそれほど疲れずに泳ぎ切れるようになることがあります。これは体力がついたわけではなく、力の使い方が変わったために起きる変化です。
もちろん、ある程度泳ぎ方が整ったあとは、純粋な体力も必要になります。月に数回しか泳がない人が、急に連続して長い距離を泳ごうとすれば、それは単純に運動量が足りていないだけです。泳ぎ方の問題なのか体力の問題なのかを見分けるには、同じ距離を泳いだときに「腕や肩が疲れているか」「息が上がって苦しいか」のどちらが先に来るかを自分で確認してみるとよいでしょう。腕の疲労が先に来るなら力みの問題、呼吸の苦しさが先に来るなら体力づくりの段階にいると考えられます。
プールのあと耳に水が残って抜けないのですが、放っておいて大丈夫ですか
軽い水の残り感であれば数時間で自然に抜けることが多く、過度に心配する必要はありません。ただし、数日続く場合や、痛みやかゆみを伴う場合は、自己判断で放置せず耳鼻科を受診したほうがよい状態です。
理由を説明します。耳の構造上、外耳道は奥がやや曲がっているため、水が入り込むと表面張力で留まりやすくなっています。多くの場合は片足立ちで頭を傾け、軽くジャンプするような動作で自然に出ますが、耳垢が多めの人や、耳の形によっては水が抜けにくい人もいます。水が残ったままの状態が続くと、湿った環境を好む細菌が増えやすくなり、外耳炎につながることがあります。
具体的には、週に3回プールに通っている人が、毎回片耳だけ水の残り感を覚えていて、数週間後に耳の奥がズキズキと痛み出し、結局耳鼻科で耳垢の除去と炎症の治療を受けた、というケースがあります。最初の違和感の段階で相談していれば、もっと軽い対応で済んでいた可能性があります。
例外として、もともと中耳炎になりやすい体質の人や、鼓膜に処置をしたことがある人は、耳栓の使用を勧められることがあります。これは水泳を続けるかどうかという話ではなく、耳の状態に合わせた対策の話なので、気になる場合は泳ぐ前に耳鼻科で相談しておくと安心です。市販の耳栓にもさまざまな形がありますが、自分の耳の形に合わないものを無理に使うと、逆に水を押し込んでしまうこともあるので、合わないと感じたら別の形を試してみてください。
独学で限界を感じたら、スクールに通うべきでしょうか
フォームの修正がひとりでは分かりにくくなってきたと感じたタイミングが、スクールを検討する目安になります。逆に言えば、それまでは独学でも十分に上達できる段階です。
理由はこうです。水泳は自分の泳いでいる姿を自分の目で見ることができない、数少ない運動のひとつです。走るフォームであれば鏡や動画で確認しやすいですが、泳いでいる最中の自分の姿勢は、感覚でしか把握できません。息継ぎのタイミングや体の沈み具合など、ある程度までは本人の感覚と工夫で改善できますが、細かい手の入水角度や、キックのタイミングのずれなどは、第三者の目がないと気づきにくいものです。
たとえば、半年間ほぼ独学で週2回泳ぎ続けて、25メートルは楽に泳げるようになったものの、50メートルを超えると急にタイムが落ちてしまう、という人がいました。この人は体力の問題だと思い込んでいましたが、実際にコーチに見てもらうと、後半になるとキックが完全に止まっていることが原因でした。本人は気づいていなかったのです。このように、自分では分からない癖がタイムの壁として現れることがあります。
一方で、健康維持や気分転換として泳いでいる人にとっては、必ずしもスクールが必要とは限りません。タイムを縮めたいわけではなく、気持ちよく体を動かせればそれでよいという目的であれば、独学のペースで十分なことも多いです。ここは目的次第で判断が分かれるところで、競技として伸ばしたいのか、生活の一部として続けたいのかによって、答えが変わってくる質問だと思います。通うかどうか迷ったときは、まず体験レッスンを一度だけ受けてみて、自分の課題がどのくらい明確になるかを確かめてから決めるのも、ひとつのやり方です。

